AI と併走して、チケット販売サービスを設計から本番運用まで到達させました。 その記録を、出せるかぎりここに置くことにしました。
黙って社内に仕舞っておくこともできたのですが、AI 駆動開発が黎明期の今こそ、 知見を自社に留めずに共有したいと思いました。
先端で活躍されている方には、既に当然の内容も多いと思います。 これから取り組もうとされている方に「ふーん」と思っていただけると嬉しいです。
公開するにあたって考えたこと、残しておきたかったことをいくつか書きます。
資料は一式そろえてあります
全5部のスライドと解説、配布資料、再現用のミニプロジェクトまで一式そろっています。
この資料の価値は、読んだ人が自分のプロジェクトで同じことをやってみて初めて出てくる種類のものだと思っています。 読んで納得するためではなく、自分の現場に持ち帰るために使ってください。
何をもとに書いたか
すべて、実在する一つのプロジェクトの記録から書いています。
本編にあたる約4か月半で、コミットが約5,750。完了したイシューが2,067件。コード規模は約41万行で、そのほぼ全量を AI が書きました。
これは自慢話ではありません。ここから先に出てくる数字と事例の出典です。 だから成功も失敗も、全部、実際に起きたことです。
そして、いきなりこの4か月半が始まったわけでもありません。 その前に約5か月、作っては壊し、「そもそも何を作るか」を延々とブレストしていた時期があります。一度は全部作り直してもいます。
迷走していた5か月が、その後の速度の土台になりました。 もし今あなたの組織がその時期にいても、それは遠回りではありません。
失敗を隠していません
読み進めると、事故の話が何度も出てきます。
開発 DB を全消去した話。スカッシュマージでコードを欠損させた話。CI の無料枠を枯らして自動化を全停止させた話。タイムゾーンなしの timestamp で9時間ずれた話。
恐らくこの記録に辿り着いた方の中には、私と同じような暗中模索を繰り返されている方もいるのではないかと思います。 ここに並ぶ失敗の多くは、AI駆動開発を始めると高確率で踏む地雷です。
格好はつきません。ですが事故のないAI駆動開発の記録には、たぶん何の役にも立ちません。 規律は事故のあとにしか生まれないからです。実際、この記録に出てくるルールもフックも、ほぼ全部が事故の後始末の中で書かれています。
なので失敗事例は12件、そのまま独立したカードにしてあります。
ひとつ余談を。
この記録は、当時使っていたモデルと環境で起きたことです。 モデルの世代が上がると、踏まずに済む地雷もあります。 ツール呼び出しの書式が崩れて作業が止まる話などは、 新しいモデルではほとんど見なくなりました。読みながら「これはもう起きないな」と思う箇所があれば、たぶんその通りです。
ただ、消えない種類もあります。 DB を消したコマンドも、19日間死んでいたバックアップも、履歴を潰すマージも、モデルが賢くなったから起きない性質のものではありません。
AI の出力の癖に起因する失敗は世代とともに減り、仕組みと権限の設計に起因する失敗は減らない。 そういう目で読んでいただけると、たぶん一番役に立ちます。
読み方
本編は全5部、134回に分けてあります。 1回は5分ほどで読めます。頭から順に読めるようにしてありますし、気になる回だけ拾っても読めます。
本編で数字や事例が出てきたら、その回の下に出典の配布資料へのリンクが出ます。もっと細かく知りたくなったらそちらへ。配布資料の側にも「この資料が出てくる回」を並べてあるので、行ったり来たりできます。
配布資料は全37編です。マニュアル、チェックリスト、移植計画書のテンプレート。書き換えて使う前提で作ってあるので、そのまま自分のプロジェクトに持っていってください。
手を動かしたい方は、再現用のミニプロジェクト「Keihi」から始めるのが近道です。
公開の前に
AI に開発を任せる話は、たいてい「どのツールを使うか」から始まります。 ですがこの記録で扱うのは、ほとんどがその手前の話です。
何を決めて、何を任せて、どこで止めるか。 言い続けるのをやめて、機械に守らせるにはどう書くか。 そして「完成した」と言っていいのは誰か。
AI 駆動開発の歴史は、まだ始まったばかりです。 Java の誕生も、インターネットの普及も、リアルタイムで見てきました。 その経験から言うと、黎明期が一番面白いです。だから今がとても面白いです。
同じことをやろうとしている方の道標になるなら、公開した甲斐があります。 読んで、自分の現場で試してみてください。感想やご質問があればご連絡下さい。
本編 — 全5部・134回
AI時代の人間の仕事
全29回第1部 — AI時代の人間の仕事(全員向け・経営層・マネジメント層・システム部門の方もご一緒に)
はじめに ・ 未来予想図 ・ 2つの誤解を正す ・ 「AIに仕事をさせるという仕事」 ・ 規律が働く瞬間 ・ 組織への持ち帰り
要件定義と設計
全32回AI は文書を読んで実装する——文書の質が実装の質の上限になる
はじめに ・ エンジニアの立ち上げ ・ ドキュメント駆動開発 ・ イシュー駆動とタスク分割 ・ 大規模な要件追加・仕様変更の作法 ・ 再現と演習
実装→検証イテレーション
全26回AI の「完了しました」をどう検収するか
はじめに ・ 検証の規律はどう生まれたか ・ 検証の階段 ・ 実証の文化 ・ 通し実装
規律の仕組み化
全24回全5部の心臓部——「言い続ける仕事」を機械に渡す
はじめに ・ ルールは事故とともに育つ ・ 多層防御の設計 ・ 記憶の設計 ・ 「AI を躾ける仕組みも AI 自身が作る」 ・ わざと事故る
デプロイ・運用・移植
全23回人間が見ていない時間に何をどこまで任せられるか
はじめに ・ デプロイフローの4世代 ・ 監視と自己修復 ・ 再現と AI コストの統治 ・ あなたのプロジェクトへ
本編が出典として指しているのは、すべて配布資料 全38編の中のどれかです。 マニュアル・チェックリスト・移植計画書のテンプレートまで、書き換えて使う前提で置いてあります。